ARROW AND THE IMPOSSIBILITY THEOREM
証明では、決定的な個人の集合の拡大と縮小を示す補題を用いる。
公理の組み合わせによって、選択肢の性質や個人の状況が考慮できなくなり、投票ルールに限定されてしまう。
個人間比較を許容すれば、厚生経済学の問題に対処できる可能性がある。
政治的意思決定では、個人の自由や権利の問題にも対処する必要がある。
アローの定理は、一見妥当な公理の組み合わせから深刻な問題が生じうることを示し、社会思想の知的世界を変革した画期的な業績である。
nishio.icon決定的な個人の集合の拡大と縮小とは?
claude.icon「決定的な個人の集合の拡大と縮小」とは、アローの定理の証明における2つの補題(中間結果)のことを指しています。
「決定性の拡大(Spread of Decisiveness)」:ある集合Gが2つの選択肢のペア{x, y}に対して決定的であれば、Gはすべてのペアに対して(全体的に)決定的である。つまり、ある選択肢のペアに対する決定性が、他のすべてのペアに波及することを示しています。
「決定的集合の縮小(Contraction of Decisive Sets)」:ある集合Gが決定的であり、かつ複数の個人を含む場合、Gの真部分集合(より小さな集合)もまた決定的である。つまり、決定的な集合から個人を削減しても、その集合は決定的であり続けることを示しています。
これらの補題は、アローの定理の証明において重要な役割を果たします。「決定性の拡大」は、ある選択肢のペアに対する決定性が他のすべてのペアに波及することを示し、「決定的集合の縮小」は、最終的に独裁者の存在につながる過程を示しています。これらの補題を組み合わせることで、アローの一般不可能性定理が導かれるのです。 nishio.icon"個人間比較を許容すれば、厚生経済学の問題に対処できる"を解説して claude.iconこの部分は、アローの定理が示す社会的選択の不可能性を克服する方法の一つとして、個人間の効用比較を許容することを提案しています。
アローの定理では、個人の選好は各個人で独立に序列化されており、個人間の効用比較は認められていません。つまり、ある個人が別の個人よりもどれだけ効用が高いかを判断することはできません。この制約の下では、パレート原理、無関係な選択肢からの独立性、無制限定義域の公理を同時に満たす社会厚生関数は独裁的なものに限定されてしまいます。 しかし、センは個人間の効用比較を許容することで、この不可能性を回避できると主張しています。例えば、所得の一部を最貧者から他の人々に分配するという提案は、利己的な社会ではパレート改善となってしまいますが、個人間比較を行えば、この提案は社会的厚生を損なうものだと判断できます。 個人間比較を取り入れることで、社会的厚生の判断や公平性の評価において、より広い情報基盤を利用できるようになります。これにより、厚生経済学が取り組むべき問題に対して、より適切に対処できるようになるのです。
ただし、センも指摘しているように、個人間比較を政治的意思決定に適用することは容易ではありません。そのため、政治的意思決定の問題に対しては、個人間比較とは異なるアプローチが必要となります。
nishio.icon"政治的意思決定では、個人の自由や権利の問題にも対処する必要がある"を解説して
claude.iconこの部分は、アローの定理が示す社会的選択の問題点とは別に、政治的意思決定における個人の自由と権利の重要性を強調しています。
アローの定理は、個人の選好から社会的決定を導出する際の困難を示していますが、ここで言及されている問題は、たとえ多数の人々が反対したとしても、個人の自由や権利が守られるべきだというものです。
例えば、ジョン・スチュアート・ミルの主張に従えば、多数派が少数派のライフスタイルを選択する自由に反対したり、個人の自由の行使を制限しようとしたりすることがあっても、少数派の権利や個人の自由は守られるべきです。多数決の原理だけでは、このような個人の自由や権利の問題に十分に対処できません。 アローの定理で示された公理の組み合わせでも、この問題は考慮されていません。つまり、多数決の原理だけに頼るのではなく、個人の自由や権利を保護するための仕組みが政治的意思決定において必要だということです。
このような観点から、政治的意思決定では、社会的選好の集約という問題に加えて、個人の自由や権利をいかに守るかという問題にも取り組む必要があります。これは、アローの定理とは異なる角度から、政治的意思決定の課題を示唆しています。
claude.iconQuadratic Voting (QV) は、個人の選好の強度を考慮し、戦略的な行動を抑制するための投票方式として提案されています。QVでは、有権者は複数の票を購入でき、各票の価格は票数の二乗に比例します。これにより、自分の選好をより正直に表明するインセンティブが与えられます。
QVをアローの定理の文脈で考えてみると、いくつかの利点が考えられます:
QVは、個人の選好の強度に関する情報を捉えることができます。これにより、より豊富な情報に基づいた社会的決定が可能になります。
戦略的な行動を抑制できるため、個人は自分の真の選好をより正直に表明するようになります。これは、アローの定理における「無関係な選択肢からの独立性」の条件を満たすのに役立つかもしれません。
QVは、少数派の意見も考慮に入れることができます。強い選好を持つ少数派は、より多くの票を購入することで、自分たちの意見を主張することができます。
ただし、QVにも課題があります:
所得や富の不平等が投票結果に影響を与える可能性があります。裕福な個人や団体が不当な影響力を持つことになるかもしれません。
これはお金を使ったQVにおいて「お金1ドル」の主観的価値が貧乏人には高く金持ちには低いことに起因しているnishio.icon QVで票を買うのに使うクレジットがお金でなければならない理由はないので何らかの購入不可能クレジットを導入すれば良い QVは、個人の選好の基数的比較を前提としています。しかし、個人間の効用比較には依然として困難が伴います。
複雑な投票方式であるため、有権者の理解と受容が必要です。
したがって、QVは、アローの定理が示す社会的選択の問題に対する潜在的な解決策の一つとして考えられますが、同時に、その実践には課題もあります。QVの導入によって、個人の選好をより正確に集約できる可能性はありますが、公平性や実行可能性の観点から慎重に検討する必要があるでしょう。